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古墨の買取相場はいくら?経年による価値の変化を解説

墨(古墨・唐墨)

古墨の買取相場はいくら?経年による価値の変化を解説

書道をしていた祖父母の遺品から、桐箱に納められた黒い棒が何本も出てきた。金色の模様が入ったものもあれば、すでに使いかけで短くなったものもある。墨だとはわかるけれど、こんな古い消耗品に値段がつくとは思えない——そう考えて処分される方が非常に多いのが古墨です。ところが実際には、墨は文房具のなかでも珍しく、古いほど評価が上がる性質を持っています。しかも中国製の名の通った古墨には、まとまった評価がつくことも珍しくありません。この記事では、なぜ墨は古いほど良いとされるのか、ひび割れや使いかけをどう考えるべきか、そして査定で何が見られるのかを解説します。読み終える頃には、桐箱の中身に対する見方が変わっているはずです。

墨とはどういう文房具か

まず、墨がどう作られるものかを押さえましょう。ここを知ると、古墨が評価される理由が理解できます。

煤と膠でできている

墨は、煤(すす)と膠(にかわ)を練り固めて作られます。煤は油や松を燃やして得られる黒い微粒子で、これが墨色のもとになります。膠は動物の皮や骨から採った接着成分で、煤をまとめて固形にする役割を担うものです。この二つに香料などを加え、練り、型に入れて成形し、時間をかけて乾燥させる。これが墨づくりの基本です。単純な材料でありながら、配合と製法によって出来上がりの質はまったく変わってきます。煤ひとつとっても、菜種油などを燃やして得る油煙墨と、松を燃やして得る松煙墨では性格が異なります。油煙墨は艶のある濃い黒、松煙墨は青みを帯びた落ち着いた黒になるとされ、書き手はこれを使い分けてきました。手元の墨がどちらかは表面の刻印や箱の記載でわかることもありますが、判別は査定士に委ねて構いません。

唐墨と和墨

墨は大きく、中国で作られた唐墨(とうぼく)と、日本で作られた和墨(わぼく)に分かれます。それぞれに歴史と特色があり、書き味や墨色にも違いが出るとされてきました。中国では墨づくりの歴史が古く、名の通った製墨家が代々続いた家系も存在します。日本でも奈良を中心に製墨が発達し、老舗の墨は今も生産が続いています。手元の墨がどちらかは、表面に刻まれた文字や桐箱の記載から判断されますが、読めなくても構いません。査定士が確認してくれます。一般に唐墨のほうが市場では高い評価を受ける傾向にありますが、和墨にも老舗の名品があり、一概に優劣はつけられません。産地よりも、誰が作ったどの銘柄かという情報のほうが重要になります。

文房四宝のひとつ

筆・墨・硯・紙を合わせて文房四宝と呼び、文人の必需品として括る枠組みがあります。このうち墨は、使えば減っていく消耗品でありながら、鑑賞と収集の対象にもなってきました。表面に施された彫刻や金彩、箱の意匠まで含めて愛でる文化があり、使わずに保管される墨も数多く存在します。「使うための道具」と「愛でるための品」という二つの顔を持つ点は、書道具に共通する性格です。実際、贈答品として墨がやり取りされることも多く、立派な箱に入ったまま何十年も開けられずにいる品があります。そうした未使用の古墨は、状態の面でも評価の面でも恵まれた状態にあるといえるでしょう。開けずにしまわれていたことが、結果として最良の保管になっていたわけです。

見た目は地味だが

正直なところ、古墨は見た目が地味です。黒い棒であり、装飾があってもくすんでいることが多く、素人目には価値がわかりません。だからこそ、遺品整理でまとめて処分されてしまうのですが、この見た目と実際の評価の乖離が、書道具というジャンル全体の特徴でもあります。地味だから捨てる、という判断が最も危険だと覚えておいてください。硯や印材も同様で、書道具というジャンルは総じて見た目の印象と実際の評価が乖離しがちです。派手さのない品ほど、専門家の目を通す価値があると考えるくらいでちょうどよいでしょう。

なぜ古いほど良いとされるのか

ここが古墨を理解する核心です。他の消耗品とは正反対の性質があります。

膠が変化していく

墨が古いほど良いとされる理由は、膠の変化にあると説明されてきました。作られた直後の墨は膠の粘りが強く、書いたときに独特の重さが出るとされます。しかし年月を経ることで膠が枯れ、墨をすったときの伸びが良くなり、書き味が軽やかになるというのです。この変化には長い時間が必要で、数年では足りず、数十年から百年単位の経過が求められるといわれてきました。ワインやウイスキーが熟成するのに近い感覚といえるかもしれません。ただし墨の場合、熟成させるための特別な管理が必要というわけではなく、湿気を避けて静かに置いておくだけで時間が仕事をしてくれます。押し入れで忘れられていた墨が、結果として良い状態になっているということも起こり得るのです。

墨色が変わる

もうひとつ言われるのが、墨色の変化です。古墨で書いた線は、単に黒いだけでなく、深みや透明感のある色調になるとされます。書の世界では、この墨色の違いが作品の格を左右する要素として重視されてきました。同じ書き手が同じ紙に書いても、使う墨によって仕上がりが変わる。だからこそ、書を本格的に嗜む人ほど良い古墨を求め、それが市場を支えてきたわけです。展覧会に出品するような作品を書く際、どの墨を使うかは重要な選択になります。市場に古墨の需要があるのは、単なる収集目的ではなく、いまも実際に使う人がいるからだという点は押さえておいてください。

「墨は古きを尊ぶ」

中国には、墨は古いものを尊ぶという趣旨の言い回しが古くから伝わっています。実用面での優位に加えて、時間そのものに価値を見出す美意識が背景にあります。数百年前に作られた墨が今も残り、しかも使えば当時と同じ黒が現れる。この事実が持つ意味は、単なる道具の性能を超えたところにあります。古墨を求める人々は、この時間の厚みごと手に入れようとしているのです。書は、書き手が生きた時代を超えて残る芸術です。その表現を支える道具が、書き手より長い時間を生きてきたものである。この重なりに意味を見出す感覚が、古墨の価値の底にあります。

供給が増えない構造

古墨の評価を支えるもうひとつの条件が、供給が増えないことです。古墨は今から作ることができません。新しく作った墨が古墨になるには、数十年から百年を要します。しかも使えば減り、割れれば失われる。市場に出回る古墨は、時間とともに減っていく一方なのです。この構造は、骨董の価値を支える最も強い要素のひとつだといえます。しかも墨は、使えば必ずなくなる消耗品です。掛軸や陶磁器のように、大切にしていれば形が残るというものではありません。使われるほど市場から消えていくという性質が、残った古墨の希少性をさらに押し上げています。

査定で見られるポイント

では、実際の評価はどこで決まるのか。整理します。

ポイント 見られること
製墨家と銘柄 墨の表面に刻まれた工房名と銘
時代 いつ頃作られたものか
ひび割れ 古墨には自然に生じる。それ自体は減点ではない
箱と付属 桐箱・紙箱・絹張りの箱と、その記載

製墨家と銘柄

墨の表面には、製造した工房や製墨家の名、そして墨の銘が刻まれているのが通例です。中国には代々続いた著名な製墨家の系譜があり、その名が入った墨は評価の土台が定まります。日本の老舗の墨も同様です。文字が読めなくても構いませんので、表と裏、側面の刻印をすべて写真に撮っておいてください。査定士はそこから製造元と時代を追います。金彩が施されている場合は、その状態も評価に関わる要素です。墨の表面には、龍や松、詩句などが浮き彫りにされ、そこに金や色が入れられることがあります。これは装飾であると同時に、どの工房のどの銘柄かを示す情報でもあるのです。剥がれかけていたとしても、決して指でこすらないでください。触れば触るほど失われていきます。

時代

いつ作られた墨かは、当然ながら重要な要素です。ただし、墨に製造年が記されていることは稀で、判断は製墨家の活動時期、墨の形状、彫刻の様式、そして状態から総合的に行われます。桐箱の記載や、購入時の資料が残っていれば、それが時代を知る有力な手がかりになります。書道具の遺品には紙類が大量に含まれますが、墨と一緒にしまわれていたものは分けて保管しておいてください。購入時の値札や、贈答の際の添え状が残っていることもあり、それらが時代を絞り込む材料になることもあります。読めない中国語の紙片であっても、捨てずに一緒に見てもらってください。同じ分野の話として、だるま3マガジンの仏具・印材は高値になりやすい?骨董水晶の価値と本物を見分ける査定ポイントを徹底解説もどうぞ。

ひび割れをどう見るか

古墨には、乾燥によるひび割れが生じているのが普通です。数十年、数百年と経過すれば、墨のなかの水分は抜けていきますから、これは避けられない現象といえます。したがって、ひび割れがあること自体が価値の否定にはなりません。もちろん、砕けてしまっているものと、細かいひびが入っている程度のものでは評価が違います。しかし「ひびがあるから捨てよう」という判断だけは避けてください。それは古墨にとって、ごく自然な状態です。むしろ、まったくひびのない古い墨のほうが、時代を疑われることさえあります。乾燥は避けられない変化であり、その痕跡は年月を経た証でもあるのです。ひび割れを気にして箱に閉じ込め、湿気を与えるといった対処も不要です。だるま3マガジンの象牙印材の価値とは?本物の見分け方・買取相場・法律まで完全ガイド|印鑑文化と象牙素材の魅力を解説も、あわせて読んでおくとよいでしょう。

絶対にやってはいけないこと

墨を削る、磨く、洗う、水につける。これらはすべて厳禁です。墨は水に触れれば溶ける性質を持っていますから、洗おうとすれば表面が失われます。彫刻や金彩も落ちてしまいます。汚れて見えても、埃をかぶっていても、そのままの状態で査定に出してください。また、乾燥を防ごうとして油を塗るといった手入れも避けてください。良かれと思った処置が、そのまま減点になる分野です。保管については、直射日光と高温多湿を避けた場所に置いておけば十分でしょう。桐箱に入っているなら、そのままにしておくのが最も安全です。桐は湿度を調整する性質を持つため、墨の保管に適した素材として使われてきました。中国古墨の代表銘柄・曹素功の買取相場|銘柄による価値の違いを解説もあわせてご覧ください。

Q&A: 使いかけで短くなった墨に価値はある?

最後に、実際に最も多い質問にお答えします。結論から言えば、価値が残ることは十分にあります。

まず前提として、墨は使うために作られたものです。書を嗜む人が良い墨を手に入れれば、当然それを使います。したがって、良質な古墨ほど使われた形跡があるのは自然なことなのです。もちろん、未使用で完全な形のものと比べれば評価は下がりますが、それはゼロを意味しません。製墨家の名が確認でき、墨質が良いと判断されれば、短くなっていても求める人はいます。実際に使う目的で買う人にとっては、多少短くても中身が良いほうが重要だからです。

むしろ注意していただきたいのは、選り分けないことです。「これは使いかけだから」「これは欠けているから」と自分で判断して処分してしまうと、そのなかに良質な一本が混ざっていた場合、取り返しがつかないことになります。素人の目で選別できる分野ではないと割り切ってください。書道具の遺品には、数十本の墨がまとめて残されていることも珍しくありません。全部まとめて見てもらう。結局のところ、それが最も確実な方法になります。

また、墨だけを単独で査定に出す必要もありません。硯、筆、印材、紙、書道関連の書籍。書道具は一式で使われてきたものですから、まとめて相談するほうが査定士にも状況が伝わりやすく、全体像を踏まえた評価が受けられます。点数が多くなりがちなジャンルですので、出張査定を選べば運搬の手間もかかりません。硯は重く、紙は嵩張ります。無理に運ぼうとして品を傷めるより、来てもらうほうが確実です。黒い棒に見えるその一本が、実は蔵の他の品より高く評価されることも、この分野では起こり得ます。査定は多くの場合無料ですし、結果を聞いてから残すか手放すかを決めても遅くはありません。祖父母が長年かけて集めたものであれば、なおさら一度は目を通してもらう価値があるはずです。

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